ロバート・ライシュのことば


これはとても重要な映画だ。我々の社会で現在起きている経済問題の中核を明らかにしている。この問題は過去30年以上に渡って拡大し続け、いま転換期に差しかかっている。
その問題とは格差の広がりである。
大恐慌以降、我々は未だ最大の経済不況の中にいる。その理由は、国の所得と富の大部分が富裕層に集中し、大多数を占める中流階級が経済を回復させるだけの購買力を持っていないからだ。
私は大人になってからの人生の大半を、アメリカの労働者階級の生活を向上させることに費やしてきた。彼らの仕事、賃料、医療、貯蓄、経済的安定などに関してだ。父親が1940年代後半から60年代にかけて、工場労働者の夫人たちに洋服を販売する仕事をしていたので、工場が閉鎖し、変化する経済状況に苦しむ労働者家庭の姿を目の当たりにした。女性が働きに出ることで生活水準を保ったが、それは一時逃れに過ぎなかった。それでも十分な収入を得ることができなくなると、アメリカの家庭はどんどん借金に陥った。これこそが、それ以降ずっと続く、アメリカ中流階級が陥った悪循環である。 多くの人が未だ経済的困難を強いられている。仕事があれば、これまで以上に懸命に長時間働く。平均賃料は減少し続ける。 しかし、一歩下がって全体図を見渡さない限り、この状況から脱する術は見つからない。賢明な公共政策の成果は、知識を得た国民一人ひとりの肩にかかっている。
私は教育者であり、教室が大好きだ。本も書き、テレビやラジオにも出演し、人々が経済の真実を理解するためにできることなら何だってする。それが私のライフワークだ。我々が直面している難題を理解してもらうためにできる最善の方法のひとつが、人々の心を掴み、行動に移させる力を持つ映画だ。この映画がまさにそうなると信じている。

ロバート・ライシュ

ライシュは、3代にわたる大統領行政府に仕えたアメリカ人経済学者、文筆家、政治解説者である。現在、カリフォルニア大学バークレー校にて公共政策大学院教授を務める。2008年、タイム誌により「最も業績を収めた20世紀の閣僚10人」のひとりに選ばれ、ウォール・ストリート・ジャーナル紙においては「アメリカのビジネス思想家トップ10」に選出された。「ザ・ワーク・オブ・ネーションズ」「アメリカは正気を取り戻せるか」、最新作「余震(アフターショック) そして中間層がいなくなる」など、12冊の著書がある。

 

監督のことば


これまで劇映画を撮ってきた者として、広がる所得格差に関するドキュメンタリーへのアプローチの仕方はとても難しかった。でも、考えているうちに、自分のバックグラウンドこそ価値があるかもしれないと気付いたんだ。まずは、概念的かつ抽象的なトピックを取り上げて、それを身近で人間味のある物語として語る方法を見つけようと心に決めた。ライシュのユーモアを見せることや、被害者としてではなく人間として取材相手に接するといったあらゆる選択によって、観る人が理解しやすいように、人間味のある言葉で問題の論点を浮き立たせようと考えたんだ。
このアプローチは僕にとってとても重要だった。経済格差は僕自身がいつも身近に感じていたことだからだ。僕は自分の家が貧しい家庭だと知って育った。学校の無料ランチをもらい、貧困線より下の暮らしだということをクラスメートに知らせる赤いAの文字を胸につけて学生時代を過ごしたのだ。母親ひとりが9,000~15,000ドル(約90~150万円)の年収で4人家族を支えた。母がつらい電話を毎日かけていたことを覚えている。医療保険費や日用品代のことだったのだろうか?毎日毎秒、のしかかってくる重圧。周囲の人たちの目も覚えている。擦り切れた服を着ている僕らを、ショッピングモールに行ったり、アイスクリームを買ったりするお金もないなら価値はないという目で見下した。
そういった育ちのせいで引っ越しも多かった。ニューヨークシティの荒れた地区で生まれ育ち、ニューヨークでの生活が厳しくなってミシガンにある田舎の高校に通い、大人になってからカリフォルニアに移った。今の僕を知っている人がこの過去を知ったら驚くだろう。教育こそが僕の逃げ道だった。経済的に困難だったことはあまり意識しない。だけど、自分がどこから這い上がってきたかを決して忘れなかったし、この社会では誰が何を手にしているのかを常に意識していた。
話を今日に戻そう。自分の経験を生かせば、幅広い層の人たちが接点を持つことができる映画を撮れるだろうと思った。僕は、この驚くほど多様性に富んだ国で、都会にも田舎にも住み、保守的な人たちともリベラルな人たちも共に暮らし、億万長者からホームレスまであらゆる階層の人たちと関わってきたのだから。
僕自身の異色な生い立ちが、この概念的な映画に人間味を感じさせるアプローチ方法を見つけるという目標を達成するのに大いに役立った。アメリカ中で、特定の主義に偏ることなく、中流階級と広がる所得格差の将来について話し合うことができると信じている。格差はもうたくさんだ。この映画が、知識と同時に刺激を与え、アメリカという国をもっと良くしたいという想いに訴えかけるものになることを願う。この壮大な概念的物語は、僕自身の物語でもあるのだ。

監督:ジェイコブ・コーンブルース

「Haiku Tunnel」「The Best Thief in the World」といった作品を手がけ、映画祭での受賞歴を誇る映画監督である。両作ともにサンダンス映画祭コンペティション部門にてプレミア上映された。「Haiku Tunnel」はソニーピクチャーズ・クラシックス、「The Best Thief in the World」はショータイム・インディペンデント・フィルムより配給された。サンダンスの監督実習プログラムに1度、脚本家実習プログラムに2度、選出されている。また、サンダンス・NHK国際映像作家賞の北アメリカ代表ファイナリスト3名の中に残った。カリフォルニア州バークレーに住み、脚本家兼監督として働く。本作の元となった、雑誌「ザ・ネイション」とウェブサイト「ムーブオン・オーガニゼイション」のロバート・ライシュが出演する人気ウェブビデオシリーズを考え出した。

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