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リティ・パニュ 監督

リティ・パニュは、フィクションとドキュメンタリー両ジャンルにおいて国際的な評価の高いカンボジア人映画監督である。1964年、プノンペン生まれ。同世代の多くと同じように、彼も、父親、母親そして直系の親族を、クメール・ルージュによる強制労働キャンプで飢餓と過労によって亡くしている。1979年、タイとの国境を抜けて、クメール・ルージュから逃亡。その後、フランスに移住し、パリにある高等映画学院(IDHEC)を卒業した。
彼はドキュメンタリー映画の監督としてスタートし、『サイト2:国境周辺にて』(1989)、「スレイマン・シセ」(1990)、「カンボジア、戦争と平和のはざまで」(1992)といった作品で数々の賞を受賞している。初の劇映画「ネアック・スラエ、稲作の人びと」は、彼の家族の思い出に捧げられている。国家の政治的な変革について描いているのではなく、この映画はクメール・ルージュ以後の世代の家族が、自然の威力と闘いながら、いかにしてその土地で生き抜いていくかという葛藤が描かれた物語になっている。カンボジア映画として初めてカンヌ国際映画祭のコンペティションに出品された。1998年には、2作目の劇映画、『戦争の後の美しい夕べ』がカンヌ国際映画祭の〈ある視点〉部門に出品されている。
彼は数多くのドキュメンタリーを監督し、その中では、「虐殺の解明:1億1千万の地雷に反対する10本の映画」(1997)、「ヴァン・チャン、カンボジアの踊り子」(1998)、『さすらうものたちの地』(1999、山形国際ドキュメンタリー映画祭2001大賞)などがある。『S21 クメール・ルージュの虐殺者たち』は、カンヌ国際映画祭〈ある視点〉部門でプレミア上映され、全世界で公開、多くの賞を受賞した。この作品は、プノンペンの悪名高きトゥール・スレン刑務所(別名S21)の元看守たちのインタビューと、彼らに監視されていた囚人たちのインタビューによって構成されている。
リティ・パニュは1990年にカンボジアに帰国し、現在はカンボジアとフランスとを行き来している。プノンペンにボファナ視聴覚資産センターを開設し、映像、写真、録音といった歴史的な資産を保存することを目的にしている。センターの名称は、彼の初期作品『ボファナ、カンボジアの悲劇』から取られたもので、この作品は、S-21刑務所で拷問の上、殺害された一人の若い女性について描いたものだ。
日本では初めての劇場公開作品となる最新作『消えた画 クメール・ルージュの真実』は。リティ・パニュとフランスの作家クリストフ・バタイユとの共著「抹殺:クメール・ルージュの生存者が向き合う過去とクメール・ルージュ刑場の指揮官」(クラーケンウェル出版刊行 2013年)にヒントを得た作品で、カンヌ国際映画祭の〈ある視点〉部門でグランプリを受賞した。
リティ・パニュ フィルモグラフィー&著書 映画作品
1989 | 「サイト2:国境周辺にて」 Site II
*難民映画祭2007上映/ドキュメンタリー |
1990 | 「スレイマン・シセ』 Souleymane Cissé (Bootleg Film)
*現代の映画監督を描くテレビドキュメンタリーシリーズの1本 |
1992 | 「カンボジア、戦争と平和のはざまで」 Cambodge, entre guerre et paix
*ドキュメンタリー |
1994 | 「ネアック・スラエ、稲作の人びと」 Neak Sre, Les gens de la rizière (Rice People)
*1994年カンヌ国際映画祭出品/フィクション |
1995 | 「タンの家族」 The Tan’s Family
*フィクション |
1996 | 『ボファナ、カンボジアの悲劇』 Bophana, une tragédie cambodgienne (Bophana, a Cambodiantragedy) *難民映画祭2007上映/ドキュメンタリー |
1997 | 『戦争の後の美しい夕べ』 Un soir après la guerre (One evening after the war)
*1998年カンヌ国際映画祭出品、1998年東京国際映画祭上映/フィクション |
1997 | 「虐殺の解明:1億1千万の地雷に反対する10本の映画」 Lumières sur un massacre
(Lights on a Massacre, in 10 films Against110 000 000 Land Mines) *10本のテレビドキュメンタリー映画のうちの1本 |
1998 | 「ヴァン・チャン、カンボジアの踊り子」 Van Chan, une danseuse cambodgienne (Van Chan, A Cambodian Dancer) *ドキュメンタリー |
1999 | 『さすらうものたちの地』 La terre des âmes errantes (The Land of Wandering Souls)
*山形国際ドキュメンタリー映画祭2001大賞 |
2000 | 「小型ボートは向きを変え、木造帆船は壊れるままにせよ」 Que la barque se brise, que la
jonque s’entrouvre *フィクション |
2002 | 『S21 クメール・ルージュの虐殺者たち』 S21, La machine de mort khmère rouge
(S 21: The Khmer Rouge Killing Machine) 2003年ヨーロッパ映画賞最優秀ドキュメンタリー賞 2003年シカゴ国際映画祭最優秀ドキュメンタリー賞 山形国際ドキュメンタリー映画祭2003優秀賞 |
2003 | 『アンコールの人びと』 Les Gens d’Angkor (People of Angkor)
*山形国際ドキュメンタリー映画祭2005上映/ドキュメンタリー |
2005 | 『焼けた劇場の芸術家たち』 Les Artistes du théâtre brûlé (The Burnt Theatre)
*東京フィルメックス05コンペティション部門出品/ドキュメンタリー |
2006 | 『紙は余燼(よじん)を包めない』 Le papier ne peut pas envelopper la braise
(Paper CannotWrap up Embers) *ドキュメンタリー *2007年ヨーロッパ映画賞最優秀ドキュメンタリー賞、山形国際ドキュメンタリー映画祭2007上映 |
2009 | 「太平洋の防波堤」 Un Barrage contre le Pacifique (The Sea Wall)
*イザベル・ユペール、ガスパー・ウリエル主演、マルグリット・デュラス原作 1931年の仏領インドシナを舞台にしたフィクション。ルネ・クレマン監督『海の壁』(1951)のリメイク |
2010 | 「ドゥイ、地獄の刑務所長」 Duch, Le maître des forges de l’enfer (Duch, Master of the Forges of Hell) *ドキュメンタリー *2013年セザール賞優秀ドキュメンタリー賞ノミネート |
2011 | 『飼育』 Gibier D’Elevage
*2011年東京国際映画祭「アジアの風」部門出品 原作:大江健三郎/フィクション |
2013 | 『消えた画 クメール・ルージュの真実』 L’Image manquante (The Missing Picture)
2013年カンヌ国際映画祭〈ある視点部門〉グランプリ/ドキュメンタリー |
*国連難民高等弁務官(UNHCR)主催の難民映画祭2007ではリティ・パニュ特集として、『サイト2:国境周辺にて』『戦争の後の美しい夕べ』『ボファナ、カンボジアの悲劇』 『焼けた劇場のアーティストたち』『さすらう者たちの地』の5本が上映。
著書
● | 「クメール・ルージュの殺人マシン、モンティ・サンテソク S-21」La Machine Khmère Rouge, Monti Santésok S-21 (クリスティーヌ・ショモーとの共著 パリ・フラマリオン出版刊 2009年) | ● | 「紙は余燼(よじん)を包めない」Le Papier ne peut pas envelopper la braise (ルイーズ・ロレンツとの共著 パリ・グラッセ出版刊 2007年) | ● | 「ノウサギたちの年月 1巻:さよならプノンペン」L'année du lièvre, Tome 1 : Au revoir Phnom Penh, (ティアンによるマンガにリティ・パニュが前書きを記す パリ・ガリマール出版刊 2011年) | ● | 「抹殺」L’Élimination
(クリストフ・バタイユと共著 パリ・グラッセ出版刊 2012年) |
※2014年6月下旬、「抹殺(仮)」として現代企画室より、翻訳書が出版決定!